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大阪高等裁判所 平成8年(う)527号 判決 1997年6月20日

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役四年六月及び罰金九〇万円に処する。

原審における未決勾留日数中二六〇日を右懲役刑に算入する。

右罰金を完納することができないときは、金五〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

押収してあるチャック付ポリ袋入り覚せい剤八袋(当庁平成八年押第一一四号《大阪地方裁判所平成七年押第八九七号》の1、2、8、9、29ないし31、34)、ポリ袋入り覚せい剤二〇袋(同号の3ないし7、13ないし27)、チャック付ポリ袋入り乾燥大麻三袋(同号の10ないし12)、メモ紙包みの覚せい剤一包(同号の28)、チャック付ポリ袋入り大麻一袋(同号の32)、チャック付ポリ袋入り大麻樹脂一袋(同号の33)、チャック付ポリ袋入りコカイン一袋(同号の35)をいずれも没収する。

被告人から金一四万円を追徴する。

理由

本件控訴の趣意は、検察官佐々木茂夫作成の控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これを引用する。

論旨は要するに、原判決は、原判示第二の覚せい剤及び大麻の各所持並びに同第六の覚せい剤所持の事実のうち、検察官において被告人が営利目的を有すると主張する部分についてこれを否定したが、被告人は右の営利目的を有していたから、原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認がある、というのである。そこで、所論にかんがみ記録を調査し、当審における事実取調べの結果をもあわせて検討する。

一  まず、関係証拠によれば、原判示第二及び第六の各薬物所持(以下「本件各所持」という。)に関し、被告人が、(1)平成六年八月二日午後八時二〇分ころ、普通乗用自動車内に置いた茶色セカンドバック内に、覚せい剤合計10.482グラム及び乾燥大麻約102.891グラムのほか、電子計量器、プラスチック製及び紙製スプーン、はさみ、チャック付ポリ袋入りのチャック付ポリ袋、注射筒及び注射針等を所持したこと、(2)平成七年四月一二日午前一〇時九分ころ、ホテル室内において、覚せい剤約23.272グラム、乾燥大麻約1.146グラム、大麻樹脂約5.031グラム及びコカイン塩酸塩約0.941グラムのほか、電子計量器、プラスチック製スプーン、はさみ、ポリ袋入りポリ袋、チャック付ポリ袋入りポリ袋及び筒状ポリ、注射針等を所持したことは明らかであり、その各所持状況の詳細については、原判決が(事実認定についての補足説明)第一の二及び第二の二で認定しているとおりである。

そして、被告人は、捜査段階において、平成六年春ころから覚せい剤への関与を始め、平成七年八月二日に逮捕されるまでの間、ラモス、ジャン及び松岡なる者らから継続的に、覚せい剤については一度に一〇グラムから二〇グラムを、大麻については一度に五〇グラムから一〇〇グラムを入手し、これを自己使用するとともに一部を友人や知人に分けていた旨述べているのであって、この供述からすると、被告人は遅くとも平成六年春ころから大量の覚せい剤及び大麻を継続的に入手してその一部を他人に分けており、本件各所持にかかる覚せい剤等もそのような経過の中でこれを所持していたものと認めることができる(なお、被告人は、当審公判廷において、友人と金を出し合って覚せい剤等を購入していた旨供述し、いったん自己が購入してその所有となったものを他人に譲渡したことを否定するかのようでもあるが、このようなことは当審公判廷に至るまではまったく述べていなかった上、共同での購入であれば当然必要となるはずの事実関係、すなわち各人の購入分や代金をどのように決めどのように授受することにしていたのかなどの点において、これまで述べていたところと矛盾するのであって、到底採用できない。)。

二 右のとおり、被告人が覚せい剤及び大麻を一部他人に譲渡していたことは被告人自身認めているのであるが、このような薬物はそもそもその所持、譲渡等が一般に禁止され、法律上重い処罰の対象とされていることを前提に、本件各所持にかかる覚せい剤及び大麻の量がかなり多量であること、電子計量器等の小分け道具まで用意されており、現にその一部は通常密売で用いられるような一定量の小袋に分けられていたこと、さらに、被告人自身、捜査段階において、自己使用分の覚せい剤代金を浮かす程度の利益をあげようとした旨一部営利目的を認める趣旨の供述をしていたことを総合考慮すれば、被告人の所持する覚せい剤及び大麻は、基本的には他人に売却することによって利益を得る、いわゆる密売のために所持されていたものと推認することができる。しかし、個別の覚せい剤、大麻につき、そのような密売用ではない特段の事情が存在し、あるいは自己使用分として特定して取り分ければその部分については営利目的が失われると考えられるところ、被告人も、本件各所持の覚せい剤及び大麻につき営利目的がないとしていくつかの弁解をしているので、これらの弁解により右推認が妨げられるか否か、順次検討することとする。

三  まず、被告人は、原判示第二の所持にかかる薬物のうち紙箱内のポリ袋五袋に入っていた覚せい剤合計約2.9グラム及びチャック付ポリ袋入り乾燥大麻約97.077グラムについては、Aからその前日に入手を頼まれて購入し、原価で同人に渡すためのもの(覚せい剤については一部自己使用分等を含むとする。)であって、営利の目的はなかった旨供述する。

しかし、その相手方Aは、検察官に対し、このように被告人に右覚せい剤及び大麻の入手を依頼した覚えはない旨供述しているところ、このA供述と被告人供述とは、Aが「判示第二の現場において、被告人らが警察官から職務質問を受けるなどして任意同行に応じようとした際、被告人から覚せい剤入りの紺色ミルキー缶を渡された」、また、「その後逮捕されたクレジットカード詐欺において使用したクレジットカードは被告人から渡された」と供述しているのに対し、被告人がこれらをいずれも否定するなど、多くの点で対立しているところである。そこで、この両者の供述の信用性についてさらに検討すると、(1)まず、被告人がAに対し覚せい剤入りミルキー缶を渡したか否かの点については、当時現場におり、Aの覚せい剤所持の事実に基づく現行犯人逮捕手続書に右授受があった旨の記載をした警察官明隆志が、当審においてその目撃状況を証言しており、この証言はその内容から十分信用できるものであるから、この点についてはAが事実を供述し、被告人が虚偽の供述をしているものと見ることができ、(2)次に、被告人がAにクレジットカードを渡したか否かの点については、この点の事実を確定するまでの他の証拠は見当たらないものの、Aが、自己の刑責を免れようとして他人の名前を出すならば、現場で直ちに確認されてしまう被告人の名前を出すことは必ずしも得策ではないと考えられるところ、被告人は、Aが多くの点で自己に不利益な供述をする理由として、自分が警察官に対し自動車内にあった覚せい剤在中のセカンドバックが自己所有であることを否定したため、その嫌疑がAに向けられたことの仕返しではないかとの憶測も述べているが、少なくともこのクレジットカードの件では、Aは事故カードであることを告げられた当初から被告人から渡された旨述べているのであって、被告人の言うような仕返しの動機では説明がつかず、少なくとも、Aの供述が虚偽であり、同人が自己の刑責を被告人に被せようとしたという方向に考えられる状況は認められず、(3)これらの点のほか、被告人は、判示第二の現場において、右にも述べたように、自動車内にあった覚せい剤在中のセカンドバックが自己所有であることを否定していたのであるが、これについては結局被告人の所有であることが明らかになったという経過が認められるのであって、これらの点で両者の供述を比較すると、全体としてAの供述の信用性が高いと認められる。そして、まさに問題となっている、Aが覚せい剤及び大麻の入手を被告人に依頼したかどうかに関わる点についても、被告人の供述には、小分けされた覚せい剤五袋を入手してから発見されるまでの経過について不自然な変遷が見られ、また、被告人の供述によればAは被告人に覚せい剤等の購入を依頼した当日も事前に連絡をとって被告人と会ったというのに、原判示第二の当時、現金を一万一七一二円しか所持していなかったという事実も認められることなどを総合すると、Aから右覚せい剤等の入手を依頼されたという被告人供述の信用性は低く、むしろ、Aの供述どおり、そのような依頼はなかったものと認められる。したがって、被告人のこの点の弁解は採用できない。

四  次に、被告人は、そもそも被告人における覚せい剤や大麻の譲渡は、友人や知人に対して無償で提供したり、原価で分けたりしていたものであって、営利目的をもって譲渡していたものではない旨供述する。

しかしながら、前にも述べたとおり、社会において薬物の所持等が禁止され厳しく取り締まられていることは周知の事実であり、しかも、被告人は、原判示第二の事件の際、その場での逮捕は免れたものの尿を提出するなどし、将来的には検挙される可能性がかなり高い状態となりながら、さらに多量の覚せい剤の入手、他人への譲渡を再開して原判示第六の行為に及んでいることからすると、この覚せい剤取引によって経済的利益を得る等の積極的な目的がないということは通常考え難いところである。被告人は、その動機として多量に入手すれば自己使用分が安価に入手できるとの説明をするが、被告人が購入資金に窮していたという状況は窺われないのであるから、安価に購入することのみを目的とするならば、一回に多量に入手してそれを長期間自己使用すればよいのであって、自己の刑責を重くし、発覚の危険を増すような譲渡行為を繰り返す理由としては不合理である。その上、被告人は、前記のとおり、営利目的を認める供述をしたこともあるのであって、被告人の原審及び当審公判廷における供述や検察官に対する一部の供述のみによって、前記営利目的の推認に疑いが生じるものではない。

そこで、さらに被告人のこの点の供述を裏付けるような事情が存在するかどうかを検討すると、まず、Bに対し、ある程度の量の覚せい剤及び大麻を無償で譲渡していたという事実は認められるものの、被告人とBとは同じ暴力団関係者であって、同人が被告人の兄貴分にあたるだけでなく、被告人自身の供述によれば生活全般についてその世話になっているというのであるから、このような特殊な関係にある者に対する無償譲渡が他の友人や知人に対する無償譲渡を推認させるものとは必ずしも言えない。そして、その他の者への譲渡についてみると、Cは、同人が、被告人から、一回分の使用量位を無償で譲り受けたこともあるものの、多くの場合は、一グラムあたり当初二万円前後、後に一万円から一万五〇〇〇円で購入していた旨検察官に供述し、また、前記Aも、同様に被告人からある程度利益の出る価格で覚せい剤を購入していた事実を供述しているだけでなく、さらにA及びDは、被告人が必ずしも友人、知人に限らない不特定の者に覚せい剤等を密売していた事実を供述している。そうすると、これらの証拠関係のもとでは、被告人の供述するような非営利目的での譲渡がなされていたとの状況を認めることはできず、結局前記営利目的の推認はゆるがない。

右のとおり、覚せい剤及び大麻の譲渡に際して営利目的がなかったとの被告人の弁解は採用できないのであって、仮に、本件各所持にかかる覚せい剤及び大麻のうち検察官が営利目的を主張する部分の一部に、将来これを無償譲渡し、あるいは自己使用することによって利益の生じないことになる部分が存在していたとしても、その存否、量も未確定であって特定されていない以上、被告人は全体について営利目的で所持しているものと認めることができる。

五  さらに、被告人は、原判示第二の覚せい剤のうちピンク色小物入れ内のチャック付ポリ袋二袋に入っていたもの合計約4.786グラム及び原判示第六の覚せい剤のうち鏡台上のミルキー缶内のチャック付ポリ袋二袋に入っていたもの合計7.728グラムについては、いずれも結晶が大きく、薬効が高いため自己使用分として取り分けていたものであるとして、営利の目的がない旨を供述する。

確かに右覚せい剤はいずれも結晶が大きい点で他の覚せい剤と区別することができ、意図的に取り分けたものとは認められるのであるが、右覚せい剤の量はいずれも多量であって自己使用のみで短期間に消費してしまう量ではない上、被告人の供述によれば、被告人が入手する覚せい剤には始めから結晶の大きなものが多く、他人に譲渡する分として小分けする際にも結晶を砕いて袋に詰めていたものと認められるのであり、そうすると、いったん大きな結晶のものを取り分け、自己使用する際には薬効の点からこれを用いるとしても、この取分けによって、その大きな結晶の覚せい剤を必要に応じて再び小分けして他人に譲渡することがなくなることまで意味するものとは考え難いのであり、そうすると、右結晶の大きな部分について営利目的がなくなったと言うことはできない。この点でも被告人の弁解は採用できない。

六  結論

以上によれば、本件各所持のうち、検察官の主張する営利目的についてはこれを認めることができるから、その証明が十分でないとして営利目的を否定した原判決は事実を誤認したものであり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。原判決は破棄を免れず、論旨は理由がある。

よって、刑訴法三九七条一項、三八二条により原判決を破棄し、当審における事実取調べの結果をも総合して、同法四〇〇条ただし書に従い、当裁判所において更に判決する。

(原判示罪となるべき事実第二及び第六の各事実に代えて当裁判所が認定した事実)原判示第二につき、その四行目「覚せい剤結晶10.482グラム」以下を、「覚せい剤結晶約2.796グラム(当庁平成八年押第一一四号(大阪地方裁判所平成七年押第八九七号)の8、9はその鑑定残量)及び乾燥大麻約5.814グラム(同号の10、11はその鑑定残量)をそれぞれみだりに所持するとともに、いずれも営利の目的で、前同様の覚せい剤結晶約7.686グラム(同号の1ないし7はその鑑定残量)及び乾燥大麻約97.077グラム(同号の12はその鑑定残量)をそれぞれみだりに所持した」と改め、原判示第六につき、その二ないし三行目「覚せい剤結晶約23.272グラム」以下を、「覚せい剤結晶約2.72グラム(当庁平成八年押第一一四号(大阪地方裁判所平成七年押第八九七号)の28、29、34はその鑑定残量)、乾燥大麻約1.146グラム(同号の32はその鑑定残量)、大麻樹脂約5.031グラム(同号の33はその鑑定残量)及び麻薬であるコカイン塩酸塩約0.941グラム(同号の35はその鑑定残量)をそれぞれみだりに所持するとともに、営利の目的で前同様の覚せい剤約20.552グラム(同号の13ないし27、30、31はその鑑定残量)をそれぞれみだりに所持した」と改めるほか、原判示と同一である。

(右認定事実についての証拠の標目)<省略>

(法令の適用)

注 以下における「刑法」は、平成七年法律第九一号(刑法の一部を改正する法律)附則二条一項本文前段により同法による改正前の刑法を示す。

被告人の原判示第一、第四、第五の各所為は、いずれも覚せい剤取締法四一条の三第一項一号、一九条(原判示第五の所為については更に刑法六〇条)に、判示第二及び第六の各所為のうち、各営利目的覚せい剤所持の点はいずれも覚せい剤取締法四一条の二第二項、第一項に、各非営利目的覚せい剤所持の点はいずれも同条一項に、各非営利目的大麻所持の点は大麻取締法二四条の二第一項に、判示第二の営利目的大麻所持の点は同条二項、一項に、原判示第三の所為は刑法六〇条、大麻取締法二四条の二第一項に、判示第六の所為のうち、麻薬所持の点は麻薬及び向精神薬取締法六六条一項にそれぞれ該当するが、判示第二の営利及び非営利目的覚せい剤所持並びに営利及び非営利目的大麻所持、判示第六の営利及び非営利目的覚せい剤所持、大麻所持並びに麻薬所持は、いずれも一個の行為で四個の罪名に触れる場合であるから、それぞれ刑法五四条一項前段、一〇条により、いずれも最も重い営利目的覚せい剤所持にかかる罪の刑で処断することとし、判示第二及び第六につきいずれも情状により懲役刑及び罰金刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により刑及び犯情の最も重い判示第六の罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示第二及び第六の各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び罰金額の範囲内で被告人を懲役四年六月及び罰金九〇万円に処し、同法二一条を適用して原審における未決勾留日数中二六〇日を右懲役刑に算入し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、押収してあるチャック付ポリ袋入り覚せい剤四袋(当庁平成八年押第一一四号《大阪地方裁判所平成七年押第八九七号》の1、2、8、9)及びポリ袋入り覚せい剤五袋(同号の3ないし7)は判示第二の覚せい剤取締法違反の罪にかかる覚せい剤であり、押収してあるポリ袋入り覚せい剤一五袋(同号の13ないし27)、メモ紙包みの覚せい剤一包(同号の28)及びチャック付ポリ袋入り覚せい剤四袋(同号の29ないし31、34)は、判示第六の覚せい剤取締法違反の罪にかかる覚せい剤であって、いずれも犯人である被告人の所有するものであるから、同法四一条の八第一項本文によりこれらを没収し、押収してあるチャック付ポリ袋入り乾燥大麻三袋(同号の10ないし12)は判示第二の大麻取締法違反の罪にかかる大麻であり、押収してあるチャック付ポリ袋入り大麻一袋(同号の32)及びチャック付ポリ袋入り大麻樹脂一袋(同号の33)は判示第六の大麻取締法違反の罪にかかる大麻であって、いずれも犯人である被告人の所有するものであるから、同法二四条の五第一項本文によりこれらを没収し、押収してあるチャック付ポリ袋入りコカイン一袋(同号の35)は判示第六の麻薬及び向精神薬取締法違反の罪にかかる麻薬で犯人である被告人の所有するものであるから、同法六九条の三第一項本文によりこれを没収し、原判示第三の犯行により犯人である被告人らが得た金二五万円の現金は、国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律一四条一項一号の不法収益に該当するが、没収することができないので同法一七条一項を適用し、既に共犯者Bに対する追徴の判決に基づき一一万円が納入されているので残額一四万円につき被告人からも追徴することとし、当審における訴訟費用については、刑訴法一八一条一項ただし書を適用して、被告人に負担させないこととする。

(量刑の理由)

本件は、営利目的を含む覚せい剤及び大麻等の所持(判示第二及び第六)、覚せい剤の自己使用(原判示第一及び第四)及び他人使用(同第五)並びに大麻の譲渡(同第三)の事案であるが、自己の利益のために薬物の害悪を社会に拡散しようとする営利目的の薬物所持がそれ自体悪質な犯罪であることは言うまでもないところ、判示第二及び第六の営利目的にかかる各覚せい剤及び大麻の量は相当多量である上、被告人は、判示第二の犯行の際に覚せい剤等を警察官に発見され、その場は自己の所持であることを隠して逮捕を免れたものの、尿を任意提出するなどして原判示第一の犯行も含む自己の犯罪に対して捜査が及んだことを十分認識しながら、さらに原判示第三から第五の犯行も経た上で判示第六の営利目的所持に及んでいるのであって、その反社会的態度には著しいものがある。しかも、被告人は、判示第二及び第六において、右営利目的にかかるもの以外にも少なからぬ量の覚せい剤及び大麻と若干量のコカインを所持し、また、自らも覚せい剤や大麻を常用する中で原判示第一、第四の覚せい剤自己使用に及び、原判示第五のとおり他人にまで使用しているのであって、覚せい剤その他薬物に対する強い結びつきが認められる。薬物に対する社会的非難が強まっている現在、これだけの薬物犯罪を繰り返した被告人の刑責は重いと言わなければならない。

したがって、被告人の営利目的がさほど大きなものとは認められないこと、被告人には交通関係の罰金前科のほか前科がないこと、現在では営利目的の点を除いて自己の犯行を認めて反省し、今後薬物との関係を絶つ旨述べていること、被告人の妹が原審公判廷において被告人の更生に助力する旨述べていることなど、被告人に酌むべき事情を考慮しても、主文のとおりの刑が相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 角谷三千夫 裁判官 川合昌幸 裁判官 鹿野伸二)

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